夏の残り香が消えぬうちに、背筋にヒリリと緊張感が走るような場所を。 “黄泉の国”と現世を繋ぐ場所へと行って
2017/07/11(火)
怪談『耳なし芳一』の舞台になった神社【前編】
日本の古典的かつスタンダードな怪談のひとつ、
耳なし芳一。
小泉八雲の怪奇小説集『怪談』が有名ですね。今もなお、絵本や児童書の定番として少年少女たちを怖がらせているようですし、テレビアニメ『まんが日本昔ばなし』での、“全身にお経を書かれた芳一が、平家の亡霊に耳を引きちぎられ、流血しながら拝んでいる”衝撃的シーンがトラウマになっている中年男女も、少なからずおられることでしょう。
アーノルド・シュワルツェネッガー主演の映画『コナン・ザ・グレート』にまでそのまんまのエピソードが登場したりもする、日本を代表する幽霊奇譚でもありますが。
実はこの『耳なし芳一』、完全なるフィクションではなく、実際に起こった事件を元に作られた物語なのでは?という説があります。
心霊スポットだったはず!?
実際に起こった出来事をモチーフに作られたお話かも?ということなのですが、「じゃあ、どんな出来事?」となると…イマイチはっきりしません。
芳一のモデルは覚一(かくいち)という、南北朝時代のお坊さんだとされることが多いのですが、これも実のところ、はっきりしません。(覚一は足利尊氏の親戚だったという説もあり、そうなると時代も時代、色々と想像はできますが。)
ですが、5W1Hのうちの“どこで”の部分だけは、はっきりと分かっています。下関市にある赤間神宮という所。
“あやしい話”が好きな人ならピンとくることでしょう。かなり有名な心霊スポットでもある…はずなのですが。
そこらじゅうに耳なし芳一の幟が立てられていて、めちゃくちゃポップな雰囲気ではないか!しかも「まつり」って…祭るなら芳一ではなく、平家の亡霊のほうなんじゃないの??
昔、「霊感のない者でも震えが止まらなくなる場所」なんていう噂を聞いたことがあるのですが。これも時代というものか。
SNS映えしそうな幟を横目に、赤間神宮へとお参りすることにしました。
竜宮城のような神門に
正面の大鳥居の向こうに見えるのが、
いわゆる楼門なのでしょうが、ここには
水天門と書かれています。
“神宮”と号してあるのを見ても分かる通り、ここはより皇室に縁の深い神社。壇ノ浦の合戦に敗れ、まだ6歳(数え年で8歳)という幼さのまま入水、崩御した安徳天皇が祀られています。
それにしても美しい、まるで竜宮城を思わせるような神門。
まだ幼すぎて事情がよく飲み込めていなかったであろう安徳天皇に、「怖がらなくても、海の底にも美しい都がありますよ」と、嘘をつかざるを得なかった平時子(安徳天皇の祖母)の気持ちを考えると、この門の見事さが、僕には切なく思えて仕方ありません。
この水天門のすぐ隣には、
安徳天皇陵(お墓)があるのですが、ここをお参りするのは最後にして、まずは本殿のほうへと。
この赤間神宮全体にご挨拶させていただくことにしました。
見事な拝殿と…
階段を登って、拝殿へと。
境内いたるところに、お祭りのポップな幟が。
そう、ここは怪談『耳なし芳一』の舞台になった場所であり、心霊スポットとしても有名な神社と聞いていただけに、ちょっと拍子抜けというか。まあ、そういう時代だし、ここは受け入れないとですね。
しかし、何度も言うようですが、本当に美しい神社です。
境内にある建築物も、あまり神社っぽくないというか、まるで寺院のようなきらびやかさが随所に感じられます。それもそのはず、元々ここはお寺だったそう。
耳なし芳一の話には和尚さんが登場しますし、芳一は琵琶法師だったし、体に書かれたのは般若心経ですし。物語の舞台は神社ではなくお寺。ここにはかつて阿弥陀寺があったそうです。ここがあの怪談の現場であるということに、ますます信憑性が深まるばかりですが。
拝殿も見事な美しさ。少し優雅な感じもします。
朱に塗られた立派な拝殿。お参りしたときにちらっと見えた本殿も見事。
竜宮城を思わせてくれる、本当に美しい神社なのですが。
この拝殿の隅っこのほうに建てられている案内板。矢印のほうに向かうと、『平家塚』そして『耳なし芳一堂』があるとのこと。
この案内の立て看板のある辺りから、境内の空気が一変。なんとなく、どんよりとしたような、重苦しい雰囲気に包まれます。
案内に従って、極端に日当たりの悪い小道を少し歩くと、
そう大きくはないお堂がぽつんと。『芳一堂』と掲げてあります。
中に鎮座されているのは、
もちろん、耳なし芳一の像で、
そして、もちろん、両耳はありません。